院長コラム

眼瞼下垂の定義

実は単純ではない眼瞼下垂の定義

眼瞼下垂とは平たく言ってしまえば、「上まぶたを開けにくい状態」のことを言います。でも、何となく上まぶたを開けにくいように感じていても、これが眼瞼下垂かどうかは自分ではわからないという方がほとんどかと思います。「開けにくい」と感じる主体はその人自身であり非常に主観的な表現だからですね。ではいったいどのような状態を「上まぶたを開けにくい状態」と定義するのでしょうか?

これは実のところそう簡単な話ではありません。上まぶたの開き具合は連続的に変化するものであって、どこまでが正常でどこからが病的か、つまりどこからを眼瞼下垂かと定義するかは実はかなり曖昧なのです。いくつかの成書を見ても、眼瞼下垂の定義は実に様々です。例えばある成書によると、「眼瞼下垂とは開瞼時に上眼瞼が正常の位置(角膜上方がわずかに隠れる高さ)より下がった状態」とされています(定義A)。この表現は一般の人にもわかり易いといえばわかり易いのですが、客観性に欠けます。「わずか」という表現がどれ位を指しているのか不明ですし、開瞼時に眉毛を挙上(努力開瞼)させないようにして観察するかどうかも不明です。またある成書によると、「眼瞼下垂とは上まぶたが瞳孔に覆いかぶさった状態」とあります(定義B)。この表現は明らかに定義Aとは異なります(角膜=黒目と瞳孔は違う)し、やはり努力開瞼を制限させて観察するかどうかは不明です。眼瞼下垂によりQOV(Quality of Vision:見え方の質)が低下するためこれを治療する必要があるという見地からすると、瞳孔(光が眼球内に入ってくる部分)を覆うかどうかを問題にしている定義Bの方がより妥当な定義かと思われます。また、同様にQOVの観点からすると、努力開瞼すること自体がQOVを損ねているので努力開瞼させないようにして観察するものと考えるのが自然な推測かと考えられます。

偽性眼瞼下垂は眼瞼下垂か?

では眼瞼下垂の定義は定義BでOKなのでしょうか?実はもっと大きな疑問が存在し、定義Aも定義Bも上まぶたの位置を問題にしていますが、この上まぶたの位置は瞼縁(睫毛の生えるところ)の位置なのかそれとも見かけ上まぶたを開いたときに上まぶたで一番下になる部分なのかという問題があります。まぶたを開けたとき、瞼縁が必ずしも一番下にくるわけではありません。一重まぶたの人は上まぶたを開けたときに皮膚がずり落ちて瞼縁に覆いかぶさってくるため、瞼縁よりも下方に皮膚が垂れ下がった状態になります。また、加齢とともに上まぶたの皮膚がたるんでくると、二重まぶたであってもたるんだ皮膚が瞼縁よりも下方に垂れ下がった状態になります。これらの状態は偽性眼瞼下垂症と呼ばれますが、偽性眼瞼下垂症は眼瞼下垂に入れてもいいのかそれとも眼瞼下垂には入れないのかという問題があります。

実際の眼瞼下垂の診断基準は?

以上のように眼瞼下垂の定義というのは実は一筋縄ではいかないのですが、では私たち臨床医が実際の診療上どのように眼瞼下垂かどうかを診断しているかと言うと、(1)客観的に得られる数字上のデータ(定量的客観的指標)、あるいは(2)患者の主観的な訴えや症状(定性的主観的指標)のどちらかあるいは両方を総合的に判断して眼瞼下垂と診断しています。以下、眼瞼下垂の診断上重要なポイントについて解説します。

(1)客観的に得られる数字上のデータ(定量的客観的指標)
瞼縁の位置を客観的な数字で表す指標としてMRD-1があり、角膜中心(瞳孔の中心でもある)から上眼瞼縁までの距離のことを言います。瞳孔の大きさは外界の明るさによって小さくなったり大きくなったりして大きさが一定ではありませんが、一応、正常な瞳孔の大きさは2.5~4mmとされているので、MRD-1がその半分の1.5~2mm以下だと上眼瞼縁が瞳孔を覆うため眼瞼下垂の可能性が大きくなります。
しかし、MRD-1のみで眼瞼下垂を定義した場合、偽性眼瞼下垂症は除かれることになります。瞼縁より垂れ下がった皮膚ではなく、瞼縁の位置そのものを問題にしているからです。瞼縁の位置そのものではなく、実際に皮膚が覆いかぶさってどのくらい見にくくなっているかは、見かけ上のMRD-1(まぶたの皮膚で一番下のところから角膜反射までの距離)を使うこともできますし、上方視野角という指標もあります。上方視野角の欠損が12度以上で眼瞼下垂の可能性が高いです。
(2)主観的な訴えや症状(定性的主観的指標)
眼瞼下垂により引き起こされる症状には、直接的なものとしてまぶたを開けにくい、上方視野の狭小化といったものが挙げられます。また、二次的間接的なものとして頭痛、肩こり、深い額のシワ、疲れやすい、顎を常に上げると言ったことが挙げられます。

眼瞼下垂かどうかを診断するには(1)と(2)を勘案して総合的に判断することになります。と言っても、ご自身が眼瞼下垂ではないかと診察にいらっしゃる方のほとんど全ての方は(1)(2)の両方に該当します。MRD-1(もしくは見かけ上のMRD-1)が正常であるにもかかわらずまぶたを開けにくく肩こりや頭痛がひどいという方は実際上ほとんど見かけませんが、もし仮にそのような場合は肩こりや頭痛の原因は他のものにある可能性が高く、眼瞼下垂治療を行うかどうかは慎重に考慮する必要があります。逆に(1)は満たすけれども(2)は満たさないという方(いつも眠そうな目をしているが本人には自覚も症状もない方)は、実際に周囲を見渡すととてもたくさんいらっしゃるのですが、症状がない以上医療機関を受診されることがないので、これもまた診察室ではほとんど見かけません。

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この記事の監修

エースクリニック 院長:
竹内孝基 医師

電話:0120-764-912

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